「クレヨンしんちゃん22年後の物語」作者が亡くなって7年が過ぎたので公開される事になった真実に日本中が涙!?

しんのすけ

みんな大好きクレヨンしんちゃん………
こんな真相があったんですね!7年経って明かされた内容とは一体・・・・?

涙なしで見ることはできないでしょう。ハンカチなどのご準備をお願いします。

本当に涙が止まりません。

22年後の物語ってこんな感じになっているんですね。

衝撃の真相は・・

※ この物語は公式物語ではありませんので悪しからず。ハイクオリティな妄想物語をお楽しみください✨

【日本中が涙腺決壊】 22年後のクレヨンしんちゃん 「春日部は最高だゾぉ」

――ひまわりは眠い目を擦り、ゆっくりと上体を起こした。

「まだ眠いよ……」

「文句言わない。ほら、仕事に遅れるぞ?」

「うぅ……分かったよ……」

不満そうにふてくされ、着替えはじめる。
彼女は去年から会社勤めを始めている。と言っても、朝は弱いし夜更かしも止めない。ちゃんと教育してきたつもりなんだけどな。

がさつで大雑把……ひまわりは、間違いなく母ちゃんの娘だな。

「――お兄ちゃん!行ってきます!」

「こらひまわり!ちゃんと父ちゃん達に挨拶したのか!?」

「えええ!?時間ないよ!」

「時間がないのはお前のせいだろ!ほら!さっさと挨拶する!」

「……分かったよもう!お兄ちゃんは変なとこだけ真面目なんだから!」

ひまわりはスーツ姿のまま、仏壇の前に手を合わせる。

「――お父さん!お母さん!遅刻しそうだけど行ってきます!」

そう叫ぶやいなや、ひまわりは忙しく玄関を飛び出していった。

「……ほんと、騒々しい奴だな……」

窓から走っていくひまわりを見送った後、今度はオラが仏壇の前に座る。

「……父ちゃん、母ちゃん。ひまわりは今日も元気です。――行ってきます」

窓の外から、家の中に暖かい日射しが射し込んでいた。

「――野原くん、この企画の件だが……」

「はい。これはですね……」

会社の中で、オラと係長は、次の企画について話をしていた。
この会社に勤めてもう9年……仕事にもすっかり慣れた。高校卒業と同時に入社したこの会社は、会社の規模は小さいが給料がいい。
おまけに上司も温かみのある人が多く、色々とオラを助けてくれている。

「――あ、もうこんな時間!帰らないと……」

「ああ野原くん!この後、一杯どうかね!」

「あ……すみません係長、これから家でご飯を作らないといけないので……」

「少しくらいいいじゃないか」

「はあ……でも、妹がお腹を空かせて帰りますし……」

「……そうか。キミは、妹さんと二人暮らしだったな……分かった。早く帰ってあげなさい」

「本当にすみません。それでは……」

足早に会社を出て、そのまま家に向かう。その帰りにスーパーに寄り、食材を購入する。
ひまわりは料理が苦手だ。たまに教えるんだが、母ちゃんに似たのか、飽きっぽくてすぐに止めてしまう。
ホント、似なくていいところばかり似るもんだ……

「――ただいまー!」

大きな声を出して、ひまわりが帰って来た。そしてスーツのまま、台所へ駈け込んで来た。

「お兄ちゃんお腹空いた!今日のごはん何!?」

「クリームシチュー。好きだろ?」

「うん!大好き!」

ひまわりは目を輝かせながら、鍋の中を覗きこむ。そして大きく匂いを嗅ぎ、満足そうに息を吐いた。

「こらこら。先に手を洗ってきな。ごはんは、その後だ」

「ええ!?いいじゃんべつに……」

「だ~め!」

「ぶー……」

渋々、手を洗いに行った。これも何度目の光景だろうか。行動が全く進歩しない妹に、少しばかり不安を感じる。
これじゃ、嫁の貰い手もないだろうな。

「いっただっきま~す!」

「いただきます」

今のテーブルを二人で囲み、晩御飯を食べ始める。
普段着に着替えたひまわりは、一心不乱にシチューを食べていた。

「――うん!さすがお兄ちゃん!すっごくおいしい!」

「ありがと。……それより、会社はどうだ?」

「会社?……う~ん、あんまり面白くないかも……」

「そりゃそうだ。会社ってのは、面白くもないところだ。面白くないことをするから、お金を貰ってる。基本だぞ?」

「そうなんだけどね……なんていうか、つまんないの。会社の業績はまあまあなんだけど、先輩に面倒なオバハンがいてね。やたらと、目の敵にしてくるんだぁ……」

「ああ、いるいる、そういうの。……まさかとは思うけど、気にしてんのか?」

「私が気にすると思う?」

「いや全然」

ひまわりは神経が図太いからなぁ……これも、母ちゃんによく似ている。

「ただ、面倒なんだよね、そういうの。嫉妬するのは分かるんだけど、それなら私以上に実績積めばいいだけだし。それをしないで、ただ因縁だけ付けてくるってのが気に入らないんだ」

「……そうか……お前も、大変だな」

「うん。まあね」

あっけらかんと、ひまわりは答える。まったく大変そうには見えないが……

食事を終わったひまわりは、風呂に入る。

「着替え、ここに置いとくぞ」

「は~い」

風呂の中から、籠った声を出すひまわり。ひまわりは、とにかく風呂が長い。
何でも、少しでもカロリーを消費するためとか。無駄な抵抗だと思うんだが……

「……お兄ちゃん?今何か、失礼なこと思わなかった?」

お前はエスパーか……

「……あんまり長風呂するなよ?この前みたいに、のぼせて倒れちまうぞ?」

「ああ!話を誤魔化した!!やっぱり思ってたんだ!!」

……こういう感が鋭いところも、母ちゃんに似てる……。

脱衣所を出ようとした時に、ふと、ひまわりが言ってきた。

「……ところでお兄ちゃん」

「うん――?どうした?」

「お兄ちゃんさ、今年で27だよね?」

「……まあな」

「――結婚とか、考えてないの?」

「………相手がいれば、いつでもしてやるけどな。そういうお前はどうなんだよ」

「私?私は、まだ早いよぉ。だって、まだ22歳だし」

「結婚まではしなくても、付き合ってる男もいないのか?」

「う~ん……言い寄って来る人はいるんだけどね……どれもいまいちというか、パッとしないというか……」

「………」

誰に似たのか、ひまわりは、凄まじくモテるようだ。まあ確かに、顔は兄のオラから見ても、かなり美人の分類に入ると思う。何気にスタイルもいい。
男にモテるのも、仕方ないのかもしれない。

もっとも、純情ピュアってわけではなく、何というか、ザァーッとして、竹を割ったような性格だから、下手に言い寄られてもまるで相手にはしないようだ。
変な男に捕まらない分、安心はしている。

「……まあ、そろそろお前も結婚考えろよ?母ちゃんは、お前くらいの時に結婚してるんだからな」

「それはお兄ちゃんも一緒でしょ?さっさと結婚しないと、一生独身の寂しい人生しか残ってないよ?」

「やかましい。ホラ、早く上がれよ」

オラは、居間に戻った。

風呂に入った後、居間でテレビを見ながら、ぼんやりと昔のことを思い出していた。

――父ちゃんと母ちゃんは、オラが中学の時に事故で他界した。夫婦水入らずで旅行に行く途中のことだ。
それから、秋田と熊本のじいちゃんばあちゃんが、オラとひまわりをそれぞれ引き取る方向で話が進んでいた。

……でも、ひまわりが、オラと離れて暮らすことを激しく抵抗した。
ひまわりにとって、親しい家族は、オラだけだった。
オラまでいなくなってしまう――小学生だったひまわりは、そう思ったのかもしれない。
結局オラとひまわりは、この家で過ごすことになった。

オラはそれまで、色々バカをやっていた。
でも、もう父ちゃん達はいない。ひまわりを育てるのは、オラの役目になる。
それ以降、オラは徹底して父ちゃん、母ちゃんになった。
最初の方、ひまわりが動揺していたのは、今はいい思い出だ。

じいちゃんたちの支えもあって、オラは高校を卒業することが出来た。

それからすぐに就職して、今に至る。
爺ちゃんたちは、大学へ行くように勧めて来た。
でも、それも断った。
いつまでもじいちゃんたちに負担をかけるわけにはいかなかったし、ひまわりの学費も工面しないといけなかった。

その決断に、悔いはない。もっとも、ひまわりも大学に行かずにアルバイトをし始めてしまったから、結局無用な心配だったが。

「……結婚、か……」

ふと、ひまわりに言われたことを思い出した。
結婚と言えば、忘れもしない出来事がある。

……ななこさんの、結婚だ。

オラが小学校の時のことだった。
ななこさんは就職し、同じ職場の男性と結婚した。
とても、いい人だった。その人を見た時、オラは全てを諦めた。この人なら、ななこさんを幸せに出来る――小学生ながら、生意気にも、そんなことを考えていた。

しかしまあ、ひたすら泣きまくったものだ。
そんなオラに、父ちゃんは言った。

『想いが成就することは、人生の中では少ない。人は誰かと出会い、想い、こうして、いつか想いを断ち切らなければならない時が来る。人生ってのは、そうやって繰り返されていくものだ。
――でもな、しんのすけ。大切なのは、その時に、どういう気持ちでいられるかってことだ。
ななこさんは、きっと幸せになる。本当にななこさんの幸せを思うなら、彼女の門出を祝ってやれ。
泣きたいときは、父ちゃんが一緒に泣いてやる。だから、祝ってやれ。それが、お前に出来る、最大の愛情表現だ―――』

そしてななこさんは、結婚した。
今では、二児の母となっている。時々家にも遊びに来る。幸せそうな彼女の笑顔を見ると、こっちまで幸せになる。

憧れは思い出に変わり、思い出はいつまでも心を温めてくれる。
そうやって、人は大きくなる―――

これも、父ちゃんの受け売りだ。

(ひまわりも、いつか結婚するんだろうな……想像も出来ないけど)

ひまわりのことを思うと、思わず笑みが零れた。
どうもオラはひまわりに甘いところがある。たった一人の妹で、大切な家族。オラの、大切な。

今はただ、彼女の幸せを祈りたい。
父ちゃん達が他界した時、ひまわりは塞ぎ込んでしまった。
学校にも行かず、ずっと仏壇の前で泣いていた。

今では、それも嘘のように元気だ。

でもひまわりは、家族がいなくなることにトラウマが残っている。
一度、オラが事故で病院に運ばれた時、泣きながら病院に駈け込んで来た。
病室で眠るオラに、大声で泣きながら『置いてかないで』と叫んでいた。
オラは寝てるだけだったのにな。

今はどうかは分からない。
ただ、彼女を心配させないためにも、オラは元気でいないといけない。

今のところ生活も安定している。
このまま、平穏に暮らせていけば、それ以上に嬉しいことはない。

「……そろそろ寝るかな」

寝室に戻ったオラは、布団に潜った。そして、静かに目を閉じた。

それから数日後、オラはとある居酒屋にいた。

「――かんぱーい!」

そこにいる全員が、高らかにジョッキを掲げる。

「風間くん、海外出張お疲れ様!」

「みんな、ありがとう!」

その日は、風間くんの帰国祝いが催された。
風間くんは、外資系の会社に勤めている。
数年前から海外出張をしていて、先日帰国したばかりだ。

「ホント、風間くんもすっかり一流サラリーマンね」

ねねちゃんが、感慨深そうにそう話す。
彼女は、保育士をしている。そして、オラたちの通っていた、フタバ幼稚園で勤務をしている。
園長先生が、相変わらず強面過ぎると、愚痴を言っていた。ただ、仕事自体は楽しそうだった。

「僕も、いつか風間くんみたいに、夢が叶うといいな……」

少し哀愁を漂わせながら、まさおくんは言う。
彼は今、とある漫画家のアシスタントをしている。かなり厳しい人らしいが、その分画力は上がってるとか。
今はアシスタントをしながら、漫画家デビューを目指し、日々ネームを作っているとか。

「風間くん、凄い」

ぼーちゃんは、チャームポイントの鼻水を垂らしながら、朗らかに笑う。
彼は、何かの研究者のようだ。その詳細は、企業秘密らしい。
ただ、先日研究チームの主任に抜擢されたとか。相変わらず、なんだかんだで、一番しっかりしてる。

「……それにしても、しんのすけもずいぶん真面目になったな」

「そ、そうかな……」

「そうそう。小学校までのしんちゃんからじゃ、到底信じられないくらいだわ」

「そんなに変だったかな……」

「うん。変だった。でも、面白かったけどね」

オラたちは笑い合い、昔話に花を咲かせた。
こうして今でも変わらず昔を語り合える友達がいることは、本当に素晴らしいことだと思った。

「――そろそろ、オラ帰らないと……」

時計を見たオラは、荷物をまとめ始める。
それを見たまさおくんは、残念そうに言ってきた。

「ええ?もう帰っちゃうの?」

「うん。ひまわりのごはん、作らないといけないし」

「あ……そっか、しんちゃんっちって……」

ねねちゃんの呟きで、その場が暗い空気に包まれ始めた。

「別に気にしないでよ。ひまわりと、賑やかに暮らしてるしさ」

「そっか……うん、そうだよな」

「幸せで、何より」

「途中だけどごめんね。風間くん、仕事頑張ってね。じゃ―――」

そしてテーブル席を離れる。

「何かあったら、すぐ言えよ!僕らに出来ることがあるなら、何とかするからさ!」

最後に風間くんが声をかけてきた。
そんな彼らに手を振り、オラは家路についた。

……しかし、順調に見えたオラにも、不景気のあおりが来ることになった。

それから数日後の会社。オフィス内は、ざわついていた。

「……おい、これって……」

「……嘘、だろ……」

皆一様に、掲示板に張り出された通知を凝視する。

そこに記載されていたのは、従業員削減の通知――つまりは、リストラ予告だった。

今のところは小規模のようだ。
各課1~3名が選ばれる。そしてオラがいる部署は、たった一人だ。
しかし、オラの部署には家族持ち世帯が大多数だ。
最近結婚した者、子供が生まれたばかりの者、子供が小学生に入学したばかりの者……それぞれに、それぞれの暮らしがある。

「……課長……」

「……ああ、野原か……」

廊下のソファーに、課長が項垂れて座っていた。オラはその隣に座る。

「……課長、リストラって……」

「……ああ。私に、一人選ぶように言われたよ。まったく、部長も酷なことを言ってくれる。
私に、選べるはずもないじゃないか……みんな、可愛い部下なのに………」

「………」

課長は、目頭を押さえていた。目の下にはクマも見え、頬もやつれているように見える。課長も、かなり悩んでいるようだ。

「……いざとなれば、私が……」

「でも課長、先日お子さんが私立の中学校に入学したばかりじゃないですか……」

「……野原、家庭の事情は、人それぞれだ。誰も辞めたくないに決まってる。それでもな、誰かを選ばないといけない。それならば、いっそ……」

課長は、語尾を弱める。覚悟と迷い……その両方が、課長の中に混在しているようだ。

――そうだ。誰でも、家庭がある。日常がある。その誰かが辞めなければならないなら……それなら……

「……課長……」

「……?」

「……オラが、辞めます」

「な、何を言ってるんだ野原!」

「誰か辞めないといけないなら、オラが辞めます。オラは、まだ結婚していませんし」

「し、しかし!妹さんがいるだろう!?」

「妹は働いていますし、何とかなりますよ。それに、オラまだ若いので、次の仕事も見つけやすいですよ」

「……だ、だが……!!」

「――課長、ここは、オラにカッコつけさせてくださいよ」

「……」

「……」

課長は一度オラの顔を見て、もう一度項垂れた。そして……

「……すまない、野原……すまない……」

課長の声は、震えていた。
オラは分かってる。一番辛いのは、誰かを選ばなければならない課長自身であることを……
だからオラは、あえて笑顔で答えた。

「……いいんですよ、課長。これまで、お世話になりました―――」

課長は、何も答えなかった。
誰もいない廊下には、課長の涙をこらえる声が聞こえていた。

そしてオラは、無職になった――――

「――あれ?」

仕事を出る前のひまわりが、オラの様子を見て疑問符を投げかける。

「お兄ちゃん、今日はかなりゆっくりだね。まだスーツじゃないなんて……」

「え?あ、ああ……すぐ着替えるよ。――それより、急がないとまた遅刻するぞ?」

「――あ!うん!」

ひまわりは食パンを片手に、玄関を飛び出していった。
彼女を見送った後で、オラは仏壇の前に座る。

「……父ちゃん、母ちゃん。オラ、会社辞めちゃったよ。小さい頃、父ちゃんにリストラリストラって冗談で言ってたけど、実際そうなると笑えないね」

仏壇に向け、苦笑いが零れた。

「……でも、今日からでも仕事を探してみるよ。……分かってる。ひまわりには気付かれないようにするから。あいつ、ああ見えて心配性だし……」

そして立ち上がり、いつもよりもゆっくりとスーツを着る。
とにかく、片っ端から面接を受けるしかない。そのどれかが当たれば、それに越したことはない。

大丈夫。きっと、大丈夫だ……

オラは、自分にそう言い聞かせながら、家を出た。

午前中から、色んな企業を周った。
求人案内が出てるところをはじめ、とにかく、直談判した。会社、工場……場所を問わず、とにかく足を運んだ。

……だが、現実は甘くない。
そもそも春先でもない今の時期に、求人があること自体が稀であった。そしてどこも、簡単にはいかない。
どこも同じなんだろう。余裕がないのだ。それに、オラも27歳。うまくいくことの方が、難しかった。

(やっぱり、どこも難しいな。でも、まだ始めたばかりだ……)

そして、オラは街を歩く。仕事を求めるため、乾いた風が吹くビルの隙間を、縫うように歩いて行った。

それから2週間経った。

オラがようやく見つけたのは、小さな工場の作業員だった。
正直、手取りはほんのわずかだ。それでも、働けるだけ運がよかったと言えるのかもしれない。

……しかし、この工場の勤務時間は以前の職場よりも長い。これまで夜7時くらいには家に帰れていたが、帰宅するのはいつも夜11時過ぎなった。
当然、夜ご飯など作る時間はない。

「……お兄ちゃん、最近帰るの遅いね……」

オラにご飯を持って来ながら、ひまわりは呟く。

「……ちょっと、な。働く部署が変わったんだ」

「そうなんだ……なんか、毎日クタクタになってるね」

「まあ、慣れるまでは時間かかるかな……」

ご飯は、ひまわりが作っている。と言っても、冷凍食品が主ではあるが。
それでも作ってくれるだけありがたい。ご飯は水が少なくて固いが、それでも暖かい。

ひまわりに悟られないように、スーツで出勤する。そして仕事場で作業着に着替えるという毎日だ。
はじめ工場長も不思議がっていたが、密かに事情を説明すると、それ以降は何も言わなくなった。

仕事は、かなり労力を使う。
単純な作業ではあるが、一日中立ちっぱなしだ。そこそこパソコンを使えるが、使う機会はほぼない。
流れ作業であるために、オラが遅れれば、後の作業に影響が出る。だから一切気が抜けない。
慣れない作業に、肉体と精神力を酷使し続ける日々は、とてもキツかった。

それでも、今は働くしかない。

休日のある日の朝、オラは目を覚ました。
日頃の疲れからか、体中が痛い。それでも起きて家事をしなければならない。

……だがここで、オラはある匂いに気が付いた。

(この匂いは……味噌汁?)

どこか、懐かしい香りだった。
フラフラした足取りで台所へ行ってみると、そこには鼻歌交じりに料理をするひまわりの姿があった。

「――うん?あ、お兄ちゃん、寝てていいよ」

ひまわりはオラに気付くなり、笑顔でそう言う。

「……お前、味噌汁作れたんだな……」

「し、失礼ね!ちゃんとお母さんから教えてもらってたんですー!」

「母ちゃんから……知らなかったな……」

オラがそう言うと、ひまわりは急に表情を伏せ、寂しそうに呟いた。

「……思い出しちゃうんだ。これ作ってると。――お母さんと、話しながら作ってた時のことを……。だから、いつもは作らないの」

「ひまわり……」

少しの間黙り込んだひまわりは、急に声のトーンを上げた。

「――だから、特別なんだよ?ありがたく思ってよね、お兄ちゃん」

はち切れんばかりの笑顔で、ひまわりはオラの方を見た。
それは、ひまわりなりの誤魔化しなのかもしれない。オラが心配しないための。自分の中の悲しみを大きくしないための。

ひまわりにとっての母ちゃんとの思い出は、暖かいものであると同時に、悲しみの対象でもある。味噌汁を作るということは、その両方を思い出させることになるだろう。
……それでも、彼女はオラのために作ってくれた。だからオラは、それに対して何も言うべきではないんだろうな。

「……いただくよ、味噌汁」

「……うん!」

そしてオラとひまわりは朝食を食べた。
味噌汁は、少し塩辛かった。でも、とても心に沁みた。

朝ご飯を食べた後で、居間でまったりしていたオラとひまわり。
目の前のテレビでは、朝のワイドショーが芸能人のスクープを取り立てていた。
何でも、俳優の藤原ケイジとアンジェラ小梅が、またもや破局したとか。何度目だ、藤原ケイジ。

そんな緩やかに時間が流れる室内に、突如けたたましくドアを叩く音が響き渡った。

「な、なんだ?」

おそるおそる玄関に近付き、ドアを開ける。――と同時に、とある女性が飛び込んで来た。

「――か、匿って、しんのすけ!!」

その女性は、室内に入るなり、ぜえぜえと息を切らしていた。

「む、むさえさん!どうしたんですか……」

オラの問いかけに、ひまわりが反応する。

「え!?むさえおばさんが来たの!?」

「おばさんって言うな!……それより、お茶くれ。喉がカラカラで死にそう……」

何事だろうか……オラとひまわりは目を見合わせた。そして仕方なく、むさえさんにお茶を差し出した。

「――ぷはぁー!生き返ったー!」

コップのお茶を一気に飲み干したむさえさんは、元気に話す。

「……それで?どうしたんですか、むさえさん?」

「え?あ、ああ……ちょっと、避難を……」

むさえさんの言葉に、オラは頭を抱える。もう、何度も聞いてきた言葉だった。

「……またですか。今度はなんですか?お見合いですか?」

「めんどくさそうに言うな!……まあ、父さんがお見合いを勧めてきたのは合ってるけどね……」

むさえさんは、少しばつが悪そうに呟く。

「そりゃそうでしょ。むさえさんも、いい加減結婚しないと」

「そうそう。むさえおばさんもいい歳でしょ?」

オラの言葉に、ひまわりが続く。

「と、歳の話はやめい!それに、おばさんって言うな!――私はいいの!写真に生きるの!」

……むさえさんは、プロの写真家になっていた。
たまに写真展を開いては、そこそこ儲けているらしい。ただ、元来適当な性格もあって、開催は不定期。今では完全に、放浪の写真家となっていた。
腕は認められてるのに、実にもったいないと思う。ただ、これだけ自然体だからこそ、いい写真が撮れるのかもしれない。

芸術家とは、かくも面倒な存在なんだろうな。

「……まあ、身を隠すだけならいいけど。それに、いくら九州のじいちゃんでも、さすがにここにいるなんて……」

プルルル…

突然、家の電話が鳴り始める。

「……まさか……」

「……ひょっとして……」

「……う、ウソでしょ……」

オラたち三人に、緊張が走る。
ひまわりとむさえさんにアイコンタクトをした後、オラが電話に出た。

「……も、もしもし……」

「――ああ、しんのすけか。九州のじいちゃんたい」

「―――ッ!」

「むさえに伝えてくれんね。――いい加減、諦めて九州に戻れとな。頼んだばい」

そして、電話は切れた。

呆然とするオラに、ドアの陰に隠れたむさえさんがおそるおそる顔を覗かせた。
どうだった?――そう言わんばかりの顔をして、オラに注目する。

オラは静かに、親指を立て、アウトのジェスチャーを取る。
それを見たむさえさんは、一人、ムンクの叫びのような顔をするのだった。

「と、父さんにバレてたとは……」

むさえさんは、居間の中央で項垂れる。

「……まあ、親子ってことじゃないの?」

「さすが九州のじいちゃんね。むさえおばさんの行動パターンを読んでる……」

ひまわりは腕を組みながら、感慨深そうに呟く。

「――こうしちゃいられない!」

むさえさんは、さっさと荷物をまとめて玄関に駆け出した。

「え?もう帰るの?」

「まあね!父さんに居場所がバレてるなら、長居は無用!」

むさえさんは急いで靴紐を結ぶ。と、その時――

「――あ、そうだった。はい、しんのすけ」

むさえさんは、オラに封筒を手渡してきた。

「これ……」

「少ないけど、なんか美味しいのでも食べなよ」

むさえさんが渡してきた封筒には、けっこうな額のお金が入っていた。

「……こんなの、受け取れないよ……」

「そう言うなって。親族からの気持ちだから、素直に受け取りなさい。アタシも無名だったころに、散々みさえ姉さんに援助してもらってたしね。それを返してるだけなんだよ。
……それに、しんのすけ達の元気そうな顔を見れたから、それでいいの」

むさえさんは、優しくそう話した。

「……もしかして、むさえさん。オラたちの様子を見に……」

オラの言葉に、むさえさんは照れ臭そうに頬を指でかく。

「……まあ、アンタ達に何かあったら、あの世でみさえ姉さんに合わせる顔がないしね……」

「むさえさん……」

「――そろそろ行かなきゃ!じゃあね!!」

そう言い残すと、むさえさんは出ていった。

「……なんか、カッコよくなったね、むさえおばさん……」

オラの後ろから、ひまわりが呟く。

「……そんなこと言ったら、またむさえさんにどやされるぞ?おばさんって言うなって。
――でも、その通りだな……」

いつもオラたちのことを気にかけてくれているむさえさん。その気持ちには、感謝してもしきれない。
オラとひまわりは、彼女が出ていった玄関に向け、小さく会釈をした。

「――おーいみんな!ちょっといいか!」

工場の中で、工場長が声を上げた。
その声に従業員は手を止め、彼の方を見る。もちろん、オラも例外じゃない。

「今日はうちの工場に、元請けのお偉いさんが視察に来る!しっかり働けよ!」

「うぃー!」

「それだけだ!作業に戻ってくれ!」

工場長が話を終えると、従業員は再び手を動かし始めた。

(元請けのお偉いさんか……難癖でも付けにくるのか?)

心なしか、全員緊張しているようにも見える。何しろ、元請けだしな。下手なことをしていたら、最悪契約を切られる。そうなったら、こんくらいの工場は、あっという間に危機に陥るだろうし。

それからしばらくすると、工場に一人の女性が入って来た。
長い黒髪をした女性だった。スーツを着こなし、毅然として歩く。

彼女は工場長からの説明を受けた後、工場内を見て回る。

そんな彼女の姿を見た従業員は、思わず手を止めていた。
それもそうだろう。何しろその女性は、かなりの美人だった。どこか童顔ではあるが、整った鼻筋、仄かに桃色の唇、きりりとした凛々しい目……その全てが、 美人と呼べるだけのパーツであり、絶妙な配置をしている。彼女の顔を間近で見れば、目の前の作業なんて忘れてしまうだろう。

……だが、どこか見覚えもある。
どこだっただろうか……

「……あら?」

ふと、彼女はオラの顔を注視した。

(やば……なんか問題あったか?)

オラは目の前の作業工程を頭の中で確認する。不備は……ない。
だが彼女は、ツカツカとヒールの音を鳴らせながら、オラの方に近付いてきた。

そしてオラの横に辿り着いた彼女は、オラの顔を覗きこむ。

「……な、なんですか?」

「………」

彼女は何も言わない。ただ黒い瞳を、オラに向けていた。見ていると、何だか吸い込まれそうになる……

――と、その時……

「―――しん…様?」

「……はい?」

女性は、オラにそう話しかけて来た。
その呼び方をする人は、オラの知る限り一人しかいない……それは……

「……もしかして……あい、ちゃん?」

すると彼女は、それまでの凛々しい態度を一変させ、その場で飛び跳ねてはしゃぎ始めた。

「やっぱりそうだ!――そうです!あいです!酢乙女あいです!お久しぶりです!しん様!」

……工場内には、どよめきが走った。

「――はい、あいちゃん」

休憩所の中で、オラはあいちゃんにコーヒーを手渡す。

「ありがとう、しん様」

「このコーヒー、スーパーの特売品だから、あいちゃんの口に合うか分かんないけど……こんなものでゴメンね」

するとあいちゃんは、首を振って笑顔を向けて来た。

「そんなことないです。しん様が入れてくれたものですもの。それだけで心が満たされます」

そしてあいちゃんは、コーヒーをすする。

「……うん。悪くありません」

「ありがとう、あいちゃん。……ところで、そのしん様って呼び方、どうにかならないかな……」

「……嫌、ですか?」

「嫌というか……なんか、恥ずかしいし……」

「………」

しばらく考え込んだあいちゃんは、口を開いた。

「……分かりました。今日からは、しんのすけさんとお呼びいたします」

「助かるよ……」

彼女は、微笑んでいた。そんな彼女に、オラも微笑みを返した。

「――それにしても、このようなところでしん様……失礼、しんのすけさんと再会するとは、夢にも思いませんでした」

「オラもだよ。まさか、この工場の元請けがあいちゃんの会社だったなんて……しかも、あいちゃんが視察に来るとは思いもしなかったよ。世間って狭いね」

「そうですわね。……でも、だからこそ人生とは楽しいのかもしれません」

あいちゃんとオラは、感慨深く話していた。

「……でも、あいちゃんは変わらないね。とても凛々しくて、カッコいいよ」

「そんな、しんのすけさん……それを言うなら、しんのすけさんもですよ」

「オラは……そんなことないよ。だって、昔みたいにバカやってるわけじゃないしね。ガッカリしたでしょ?」

「いいえ!そんなことありません!」

あいちゃんは、語尾を強くしてオラの方に体を向けた。

「確かに、今のしんのすけさんは変わられました。でも、それはいいことなんです。
人は、時間の流れと共に、年齢を重ね、体を変化させていきます。
――ですが、心は違います。
心だけは、成長するか否かは、その人自身にかかってます。若くして立派な心を持つ者もいれば、歳だけを重ねて、いつまでも心を成長させない者もいます。
……しんのすけさんは、きっと前者です。しんのすけさんは、歳相応に心も成長しているんです。
そんなしんのすけさんは、素敵だと思います……」

「あいちゃん……ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ。そんな自覚はないけどね」

「いいえ。しんのすけさんは、やっぱりしんのすけさんですよ。行動が変わっても、それは変わっていません」

あいちゃんは、微笑みながらそう言ってくれた。
そんな彼女の言葉に、どこか救われた気がした。

父ちゃんと母ちゃんがいなくなってから、オラはしっかりしようと思った。
オラがしっかりしないと、ひまわりを育てることが出来ない。そう思っていた。
それでも、オラの中には不安があった。自分はきちんと出来ているだろうか。大人として、ひまわりの手本のとなれるだけの人になっているだろうか。そんなことを考えていた。

そしてあいちゃんは、オラのそんな不安を払拭してくれた。
それが、とても嬉しかった。

「ところでしんのすけさん。あなたは確か、中小企業で働いていたのではありませんか?どうしてこの工場で……」

「ええと……それはね……」

「……あ、もしかして言いにくい事情がおありなんですか?それなら、無理に言う必要はありません」

「……そ、そう?ありがとう、あいちゃ――」

「――こちらで、調べますので……」

「へ?」

「――黒磯」

あいちゃんの呼び掛けに、天井からスーツ姿の黒磯さんが降りて来た。

「―――!?」

黒磯さんは、白髪になっていた。色々と苦労が多いのかもしれない。それでも、その白髪頭は、まるで歴戦の戦士のように見える。なんというか、渋い。
黒磯さんは、オラに深々と一礼した。

「……お久しぶりです、しんのすけさん。お元気でなによりです」

「あ、ああ……黒磯さんも……相変わらずだね……」

「黒磯。至急調べなさい」

「――御意」

あいちゃんの言葉に、黒磯さんは再び天井にロープを投げ、スルスルと昇って行った。
……色々と、レベルアップをしているようだ。

それから十数分後……

10 件のコメント

  • いやぁすごいなぁすごいリアリティーのあるクレヨンしんちゃんだった、最終回って感じさせない終わり方だったな。続きがきになるし!
    感動しました

  •  確かに泣いたよ。
     ぼろぼろ泣いたわ。
     でも感動する前に、こんなムダに長い創作文11ページも読まされて、2時間位かかって読み終わった今すんごい眼圧で、ドライアイになってて、そっちの方で自然と涙が補給された感じ。
     今ほんと目が痛いわ。

     話は良かったけどね。
     ひまが、結婚するまでの話ですな、要するに。
     まさお君お気の毒、つっか、無駄にポジな性格が祟ることになるとはね。周りのことなんかちっとも見えてないんだな、空気読めてないつーか。

     というかそもそも、幼稚園時代から関わりのあった知人友人が、30前までになっても付き合いあるのはホント滅多にないから、現実には。
     あいちゃん、誰かつっか、どんなキャラすらかも知らんからググって画像見てくるけど。強引なんやな、私と似てるな。
     境遇正反対やけど。

     あああ、眼圧で目が痛い、今目薬切れてるしなあ、ゔー、きつい。
     誰かよく効く目薬教えてくれませんか;

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